心エコーで壁運動を評価するコツ

こんにちは。Echo Prime Qです。

 

今回のテーマは壁運動異常についてです。

 

まず結論から言うと、壁運動の評価は主観です。

経験や慣れが必要であり、個人差が大きく影響します。

誰かが最初に「悪い」と言えば、不思議とその箇所が悪く見えてしまうこともありますし、鶴の一声で判断が変わることもあります。

 

自分の壁運動評価を納得してもらうための方法があります。

今回、その方法を共有したいと思います。

 

心エコーで壁運動評価を評価するコツ

 

まず、客観性を持たせることが非常に重要です。

客観的な情報があれば、相手も納得しやすくなります。

初めは主観的な評価からスタートし、それに加えて客観的な情報を提供することがポイントです。

「私はここの部分が悪いと感じます。なぜなら、こういった客観的な所見があります」というアプローチが効果的です。

逆に、客観的な情報から判断することもあります。

 

具体的な方法については以下になります。

 

正常部分と比較

正常部位と低下部位を同時に記録し、同じ画像内で比較します。

正常部分と比較することで、客観性を持たせます。

【レポートへの記載例】

  • 前壁~前側壁(側壁)に低下を認めます。中隔の壁運動と比べて壁厚増大の程度が弱いです。
  • 心尖部の低下が疑われます。心基部と比較して壁厚増大の程度が乏しいです。

             

複数断面で判断

傍胸骨断面、心尖部断面の両方で確認します。

場合によっては心窩部断面も活用します。

どの断面でも悪ければ低下と判断します。

もし断面によって印象が異なるようでしたら再確認します。

(あとから見直すとか、角度をずらして観察するとか・・・)

 

注意点もあります。

弱く見えやすい部分もあることです。

私が気をつけているのは以下の領域です。

  1. 下壁中隔基部、下壁基部:心尖部断面では内膜のラインがわからなくなったり消えたりします。必ず傍胸骨断面でも確認します。
  2. 中隔中部:S字状中隔では、中隔中部が薄いことが多いです。一見非薄化しているように見えます。中隔基部が厚い分、中部の薄さが際立ちますので注意しています。収縮期に厚くなっているかを多角的に観察しています。
  3. 前壁:肋間からのアーチファクトが被りやすく、壁運動を見落としやすいように感じます。
  4. 後壁:腱索やアーチファクトで内膜を見失うことがあります。


【レポートへの記載例】

  • 心尖部断面では下壁基部の低下が疑われますが、傍胸骨断面では正常です。心尖部断面ではアーチファクトの影響で内膜が見えにくくなっていたと考えます。
  • 傍胸骨断面が描出困難です。心窩部断面から描出できたので、こちらの断面で判断しました。

 

心筋の性状

心筋は障害を受けると、輝度が上昇し、壁厚も薄くなります

心筋が壊死し線維組織に置き換わり瘢痕化するためです。

そのため、輝度や壁厚の変化は、壁運動低下を疑う重要な所見になります。

 

ただし、輝度が高くて壁厚が薄めでも、壁運動自体は正常なこともあります。

そういう場合は、「壁運動は正常の範疇ですが、内膜輝度が高く、壁厚も薄めなので、低下している可能性が考えられます。」と書いています。

 

【レポートへの記載例】

  • 前壁中隔から前壁にかけて低下の可能性があります。内膜輝度が高く、壁厚も他の部分より薄いです。

 

前回との比較

前回画像が残っていれば、見比べます。

前回と同じ断面で比較して弱いと思えたら、「低下あり」と判断します。

その際は、同じ断面どうしを見比べると、より説得力が上げられると思います。

【レポートへの記載例】

  • 前壁中隔の低下を疑います。前回画像で短軸断面どうしを比較したところ、前回より動きが悪く、内膜輝度の亢進を認めます。

 

スペックルラッキングの活用

スペックルラッキングを用いたストレイン評価も有用です。

ストレイン評価には3種類あります(長軸方向、短軸方向、円周方向)。

 

その中でも、特に長軸方向のストレイン低下は壁運動低下よりも早く現れると考えられています。

つまり、「壁運動低下がある」という所見があれば、「長軸方向ストレイン低下もある」という関連性が期待されます。

 

ただし、注意点も存在しますので、それについても述べます。

 

また、駆出後収縮運動(post-systolic shortening:PSS)という現象も注目されています。

これは収縮期が終わって大動脈弁が閉じた後に最も収縮が生じるものであり、虚血を受けた部分において出現することがあります。

虚血が改善してもPSSが確認されることから、虚血の有無や改善の程度を示す指標として有用とされています。

一部の報告では、PSSがGLSよりも予後の予測において優れているとされています。

 

JACC Cardiovasc Imaging . 2009 Nov;2(11):1253-61.

Insights Imaging . 2022 Mar 2;13(1):35.


【レポートへの記載例】
・前壁および前側壁(側壁)の壁運動低下を疑います。スペックルラッキングストレイン値も低下しています。

PSSを認めるため、この領域の低下が疑われます。

エコー以外の情報活用

病歴、症状、心電図を見ておきます。

壁運動異常の可能性が高い症例を把握しておくためです。

リスク因子がある症例(高血圧、高脂血症、糖尿病)、最近胸が締め付けられるような胸痛がある症例、では特に注意して観察します。

心電図では、R波増高不良、異常Q波、ST-T異常など、何らかの所見があるときは怪しいと思って検査します。

むしろ、そのような心電図所見がある場合、エコーで原因を求められることもあります。


【レポートへの記載例】

  • 前壁中隔や心尖部の低下を疑います。心電図ではV1-V3載せてR波増高不良を認めています。
  • 下壁が全体的に低下しています。心電図上、Ⅱ、Ⅲ、aVf誘導で異常Q波もあります。

注意すべきこと

描出不良例

見えないと評価できないので、無理に判断しない方が良いことがあります。

不明瞭であれば、内膜の位置の同定を見誤るかもしれません。

「描出不良のため多断面での評価が難しい」と記載し、明瞭に見えた断面のみで評価するのも大事です。

アーチファクト、周辺組織の影響

様々なアーチファクトが左室壁内膜に干渉してきます。

大きく分けると2種類です。

  • アーチファクトが重なってくるパターン
  • 超音波が入らず内膜が見えなくなるパターン

(2つめは減衰の影響もあるので厳密にいうと違うかもしれませんが...)

心尖部の心筋梗塞症例では、瘢痕化の高輝度部分から多重反射が生じ、壁と内膜の境界が分からなくなることもあります。

多重反射が血栓のように見えることも少なくありません。

アーチファクトや周辺組織の同定には、描出位置をずらす、多断面で観察する、等が有効です。

ストレイン値低下を用いた評価

さきほど、「壁運動低下がある」なら、「長軸方向ストレイン低下もある」と説明しましたが、ストレイン低下の方が先に低下が生じるため、という理由です。

ですが、実際はそうならないことも経験します。

ストレイン評価は、画質やトレース法に依存する問題があります。

不鮮明な画像、関心領域がおかしいストレイン評価では、当然値もおかしくなります。

また、ストレインの結果は検証が難しいです。

本当に悪いのか、計測の問題なのか、検証する方法がありません(MRIすればできるのかもしれませんが)。

そういうことで、使い方としては、壁運動異常とストレイン低下が両方あったら、より疑わしいと判断するのがベターかなと思います。

PSSを使ってもいいと思います。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

壁運動はルーチンでやりますが、とても難しいです。

私も未だに他の検査者と一致しないこと、カテーテルやCTのと合わないことを経験します。

ですが、それは心エコーの限界として仕方ない部分もあります。

大事なことは、心エコーで壁運動を判断する場合は客観的な情報も入れることであり、信頼が得られていくと思っています。

上記の方法以外にも、良い方法が見つかったらアップデートします。

最後までご覧いただきありがとうございました。